融 ― とおる ―
- 作者 世阿弥
- 素材 『伊勢物語』『今昔物語』
- 場所 京都・六条河原院の跡(現・京都市下京区)
- 季節 秋
- 不明
- 演能時間 1時間30分
- 分類 5番目物
■登場人物
- 前シテ・・・尉
- 面:笑尉 または 朝倉尉 または 三光尉
- 装束:無地熨斗目 絓水衣 緞子腰帯 腰蓑 尉扇 田子
- 後シテ・・・融大臣
- 面:中将
- 装束:初冠 赤地金緞鉢巻 紅入縫箔 指貫込大口 単狩 または 直衣 縫入腰帯 黒骨妻紅扇
- ワキ・・・旅僧
- 装束:角帽子 無地熨斗目 水衣 緞子腰帯 墨絵扇 数珠
- アイ・・・所の者
- 装束:狂言長上下
■あらすじ
都を訪れた旅僧が六条河原の院で、田子(汐汲道具)を担いだ老人に出会います。海辺でもないのにと尋ねると、今は荒れ果てているが、昔は左大臣源融が塩釜の浦を模して造園し海水を運ばせ塩焼をして風流を楽しんだと語ります。そして京の山々の名所を教えると、月を見て汐を汲む頃合いだと言い消え失せます。 六条辺りに住む者にそれは源融の霊だろうと教えられ、旅僧は弔いをします。すると貴人姿の融大臣が現れ、名月の下で舞をまい、月が西に傾くと共に消えて行きます。
■みどころ
月をモチーフにした世阿弥の名曲。荒涼とした六条河原の院に、かつての源氏の栄華をイメージの世界に再現する左大臣源融の亡霊。月の満ち欠けの永遠と滅び去ったものへの思いが対比し、月の出から月の入りが見事に組み入れられた能。
■ワンポイントアドバイス
源氏物語の主人公である光源氏のモデルの一人とされている。源 融(みなもとのとおる)。三千人の人を使って、難波の浦から海水を運ばせ、陸奥の塩竃の塩焼を邸内で模した豪奢な人。今は廃墟となり、昔と変らぬは月ばかり。名月の夜に現れる融の霊は、昔の遊楽遊舞をひたすら満喫するが如く舞い遊び、月の世界へ消えていく。
■小書
思立之出(観世・喜多) 今合返(観世) 白式舞働之伝(観世) 窕(観世・宝生・金剛) 十三段之舞(観世・金剛) 舞返之伝(観世) 舞留(観世) 袖之留(金剛) 笏之舞(宝生・金春・喜多) 酌之舞(観世・宝生) 脇留(観世・金剛) 曲水之舞(喜多) 遊曲(宝生・金春・金剛・喜多)
■小書
- 東国から来た旅僧が都に上り、六条河原院に着き休む。
- 月明りの中から汐汲みの姿で老人が現れる。
- 海辺でもないのに不思議に思い僧が声を掛けると、融の大臣が陸奥の塩竃をこの六条院に移し酒宴をひらいたと語る。
- 僧がその由縁を尋ねると、塩焼きの様や山々を名所になぞらえ四季折々の美しさを愛でかつての栄華の様を語るが、またいずこにか紛れて消え失せる。
- 所の者が登場し、融大臣の亡霊は、名月の夜などにこの河原院に現れると話をする。
- 奇特を再び見ようと旅僧がまどろんでいると、かつての華やかな姿で融大臣が現れ、月の光を愛で栄華を懐かしみ舞を舞い、また名残惜しくも消え失せる。