隅田川 ― すみだがわ ―
- 作者 観世十郎元雅
- 素材 『伊勢物語』九段の業平東下り
- 場所 武蔵国隅田川・東京都墨田区隅田町
- 季節 春・3月
- 時 中世
- 演能時間 約1時間30分
- 分類 四番目物・狂女物
■登場人物
シテ・・梅若丸の母(狂女)
面:深井又は曲見
装束:摺箔・無紅縫箔・水衣・笠・笹・鉦、撞木
子方・・梅若丸の亡霊
装束:黒頭・白練・白水衣
ワキ・・渡守
ワキツレ・・旅人
装束:無地熨斗目・掛素袍・白大口・男扇・小刀・笠
■あらすじ
武蔵国の隅田川で渡し守が船に乗る人を待っていると、旅人が来て後から女物狂がやって来る事を告げる。 子供を人買いにさらわれ狂乱し、我が子の行方を尋ね歩き、都の北白川から遥々東国まで来た女。 狂女は船に乗せてくれるよう頼んでも乗せようとしない渡し守に、『伊勢物語』の詞章を引用しやり込め、沖のかもめを見て業平の古歌を我が境遇と重ね哀れむ。哀れに思った渡し守は船に乗る事を許す。 船を漕ぎ出してから川向こうで行われている大念仏について旅人が聞くと、1年前に人商人に連れられて来た子供が病死したのを人々が不憫に思い回向 している事を渡し守が語る。それを聞いていた狂女はまさしく自分が探している梅若丸だと判り泣き伏してしまい、同情した渡し守は下船後、墓標となっている塚へ女を案内する。一同に交じって念仏を唱える母。すると我が子の声が聞こえ、姿が幻のように現れる。母は歩みより抱こうとするのだが、夜明けと共に消え失せ、あとには草の茂る塚があるだけだった。
■みどころ
狂女とは、夫や子供と別れ別れになり、悲しさのあまり自失茫然となり、人目をはばからない状態で別れた人を探し歩くので他人からは狂女と見える。高ぶる感情であるが花と月に心を寄せ美しい心を見せる。
これ等のジャンルを扱った狂女物は、結末に尋ねる人とまわり逢うが、この作品は子供の墓標との再会となる唯一の悲劇作品である。
人身売買の横行した中世の風俗が反映されている。『伊勢物語』の挿話で芸術性も高められている。
シテが登場してすぐに<カケリ>がある。これは囃子で舞台を巡り、テンポの変化で心の異常を表現する。
船中のワキの語りとその後のシテとの問答は聞かせ所である。
■ワンポイントアドバイス
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「名にし負はば いざ言問はん 都鳥 わが思ふ人は ありやなしやと」
伊勢物語九段、在原業平の歌。(歌意…都という名をもっているなら、尋ねてみよう、都鳥よ、わたくしが恋しく思っている人は無事でいるかどうかと) - カケリ(翔)…シテが登場してすぐに舞台を一巡りする場面がある。謡はなく囃子の演奏によって動く短い部分であるが、静・動と変化するテンポで尋ね歩く心の乱れを表わしている。
- この能は浄瑠璃や歌舞伎にも採り入れられ、多くの隅田川物の原拠となっている。1964年にイギリスで初演されたオペラ「カーリュ―リバー」が能『隅田川』をそのまま教会劇に翻訳された物として知られている。
■小書
彩色(観世)後之彩色(金剛)鉦之音(観世)六字鉦鼓 (金剛)
■舞台展開
- 渡し守(ワキ)の登場
- 旅人(ワキツレ)の登場
- 狂女(シテ)の登場・我が子を尋ねて隅田川迄来たことが語られる
- 乗船を乞う
- 乗船。渡し守による人買いに拐かされた少年の悲話
- 渡し守に案内され子の墓標と対面、母の悲嘆
- 念仏を唱えると我が子の声を聞く
- 我が子の亡霊を追う